ジャンゴ・ラインハルトの誕生日(5.16)は、芭蕉の奥の細道出立の日。 こまごま室内での用事もあるけれど、こんな日はじっとしておれない。 「片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」、と散歩に出た。 連れは、奥の細道300周年の日に作った芭蕉像。 「取もの手につかず」双眼鏡を忘れ、シューズを履き間違え。 朝方は飛ぶように走っていた雲が、夕方には一つもない。 なんだ、「ヌアージュ」を聴きながら、雲も楽しみたいと思っていたのに。 雲は<へうはく>の友なんだがな。 翁がまず白川の関を目標としたように、宛は城山麓の芭蕉の木にした。 散歩のBGMはジャンゴと決めてiPhoneを探ると、まさかの一曲のみ。 (iTunesに収録曲が多すぎて、セレクトを後回しにしたままだった) その一曲「マイナー・スイング」を取り敢えず繰り返して、 後はジプシーというプレイリストに入っている20曲で代行することに。 芭蕉は旅の達人、風の達人。 ロマの人々は旅の民族、空と風の民族。 われも、と言いたいところだけれど、魂はともかく、 さっそく道筋をうっかり。ゆるい登りで息も早々と上がり気味。 薔薇と金屑、エノキ、テイカカズラ、クローバー、オオデマリと ここまでは前回と一緒。四つ葉も一枚見つけた。 バラもクローバーも芭蕉の知らない植物だろう。 一句詠んでもらえるなら、どういう句振りだろうか、と空想も楽しい。 空ではヒバリが高らか。 キジの声も一度したように思う。 どこの庭にもシャクヤクが咲いて、マルハナバチが花粉にまみれている。 ゆっくり坂を登り、犬に吠えられ、ようやく宛に辿り着く。 山麓の禅寺への参道脇に野生していたバショウ。 それが無かった。どこか間の抜けた風景。まさかね。 一度花を見たいと願いつつ、暑い頃で叶わなかった。 この町で他にバショウのあるところを知らない。 誰のじゃまにもならず、独り茫々と天地に自適していたのにね。 その場を動けずにいると、すぐ頭の上でいい声の、いい歌がする。 ホオジロだと思うけれど、いつもより声も節も豊かで美しい。 やや元気が出て、寺まで登り、傍らの林に分け入ってみた。 白い花をびっしり着けた一木が涼やかに立っていた。 遠目ではミズキかムシカリかと見えたのが、ガマズミだった。 足下には珍しい形をしたトウダイグサが目に付く。 再び犬に吠えられながら坂を下り、別の峠道を登る。 バショウに会えなかったのなら、ユリノキだ。 娘さんが生まれた記念樹で、主は植木屋からフウだと聞いたらしい。 でも、花と実と葉のどれを見てもユリノキ。その花の季節。 無かった。歯の抜けたような風景。今日は、まさかばかり。 切り株があった。上の畑の片隅に伐採した幹や枝が纏められていた。 むざんやな、と芭蕉の山中での句が出かかった。 冬芽のままの枝先を三本ほど貰った。 一本だけ緑の新芽が出ているのを見つけて、それも貰った。 去りがたく写真を撮っているとセグロセキレイが眺めに来た。 町から次々と馴染んだ木が消えていく。 流寓十年を慰めてくれた木たちである。 この二三年であちこちの木が刈り込まれてもいる。 藪や草叢が刈られて、鳥たちはますます住みにくくなるばかり。 家(町)を出て、散歩ではなく、漂泊をしたくなってくる。 農道をとぽとぽ帰っていると、まっすぐにカワラヒワが飛んできて、 頭の上でホバリング? と思ったら、電線があった。 さらに行くと、こんどはスズメが近くの杭に止まって大きく鳴いた。 こちらを向いて、iPhoneカメラを構えても逃げない。 キョロン、ジッ、キョロン、ジー、と聴き慣れない節。 アカハラみたいな囀りだけれど、どう見ても普通のスズメ。 普通でないのは、その態度と、その鳴き振り。 なるほどすべてのことは虚論かもしれない。 あるいは虚露と言ったのか。 「行く春や鳥啼き魚の目は泪」だから、今日鳥たちはやさしい。
by r_bunko
| 2014-05-18 12:57
| ふうら散歩
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